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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)2347号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護士前堀政幸の上告趣意第一点について。

所論は、要するに、原判決は、被告人が田中昇と投票買収を共謀したうえ同人に対し三回にわたって交付した交付金のうち一部を供与等に使用した残金一〇五万八千円(第一回分一七万円、第二回分四〇万円、第三回分四八万八千円)が、田中の手もとで他の金員と混同したとはいえ、その全部が田中によってさらに供与に使用された事実を認めているにかかわらず、供与の罪に吸収されないとして交付の罪の成立を認めていることは、当裁判所昭和四〇年(あ)第一五四一号同四一年七月一三日大法廷判決(刑集二〇巻六号六二三頁)およびこれを引用踏襲した本件先の上告審差戻判決(昭和四一年(あ)第一七〇九号同四三年三月二一日第一小法廷判決、刑集二二巻三号九五頁)に示されている交付の罪と供与の罪との吸収関係に関する法律上の判断の拘束力に違背しているから、判例違反ならびに法令違反である旨主張するが、右大法廷判決は、買収共謀者間でなされた交付、受交付と供与とに関するものではあっても、本件のように交付金の残金が受交付者の手もとで他の金員と混同を生じた後になされた供与の罪との関係に関する場合とは事案を異にするものであるから、本件に適切な判例とは言えず、その余は、単なる法令違反の主張であり(本件先の上告審差戻判決は右の混同後供与に使用された交付金の残金の処置についてはなんら判断を示していないものと認めるのが相当である)、結局第一点の所論はすべて適法な上告理由にあたらない(なお、買収を共謀した者相互の間で買収を目的とする金員の交付、受交付が行なわれた場合において、供与に使用された交付金の残金が受交付者の手もとで他の金員と混同を生じた後、供与に使用されたとしても、右の混同のため右残金からだれに、いつ、いくらずつ供与されたか供与罪として特定できないときは、右残金については、供与罪に吸収されることなく、交付罪を構成するものと解するのが相当である。)。

同第二点および第三点について。

所論は単なる法令違反および量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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